自分なりの映像を作るために

自分にとってベストな機材を考える

ブラックマジックデザインのカメラを使うのは完璧なショットをワンカットは撮りたいから

現在のメインカメラは、ブラックマジックデザインのフルフレームの6K(BMCC 6K)です。リールを撮るときに、RAWでダイナミックレンジが広い完璧なショットをワンカットは撮りたいと思っているので、動画のトップに持っていくようなショットのためにこのカメラを使っています。

また、ニコンZ7も好きなレンズを使うために使っています。よく使うのは50mm f/1.2のレンズで、重たいんですが立体感のある映りが好きで使っていますね。

ソニーFX3は最もコンパクトかつ、仕事でも安心して使えるカメラです。使用するレンズは一例で、他にも広角から望遠まで一通り揃えて使っています。

ブラックマジックデザイン Blackmagic Cinema Camera 6K


シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art


ブラックマジックデザインのカメラは手ブレ補正が効かず、重い上に自分のジンバルにも載せられないため、基本は三脚に載せてフィックスの画を撮るために使用。「1本のリール動画でもいろんなカメラとレンズを使い分けて、最後にルックを合わせてひとつの映像にしています」と正垣さん。カメラが好きでこのカメラはどんな画になるんだろうという興味もあるそうだ。


ニコン Z7


ニコン NIKKOR Z 50mm f/1.2 S


ニコン NIKKOR Z 24-120mm f/4 S



ソニー FX3


ソニー FE 16-35mm F2.8 GM II


シグマ 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art


ソニー FE 70-200mm F2.8 GM OSS II







インプットとアウトプットを繰り返す

同じサイクルを2年以上繰り返すことで自分なりの型ができあがっていった

仕事がある日のタイムスケジュールは大体右図のような感じで、朝7時から9時までが自分の作品の撮影・編集、会社の仕事が9時から21時くらいまで、その後は帰ってきてまた編集をしたり、インプットの時間に充てています。

ただ、朝の撮影に行くのは週1程度で、朝7時に現地に到着するように向かい、9時には会社に着いていなければならないので制限もありつつやっています。撮影以外の日は基本的に撮った素材の編集をしています。そのサイクルを2年以上繰り返しているので、量をこなしていくうちに自分なりの型ができあがっていきました。




デザインを見直す

「私の作品といえば、この雰囲気」というイメージを定着させることが重要なポイント

初期は、観光地の説明やスポットがわかるようテキストを大きくしていました。フォントも特にこだわっておらず、「日本語らしい明朝体にしよう」と、単純な考えでやっていたデザインでした。今は映像を見てもらうため、スポット名は邪魔にならない場所にさりげなく載せ、フォントも主張を抑えつつ映像の雰囲気に合ったものをチョイスしてデザイン性を高めています。「私の作品といえば、この雰囲気」というイメージを定着させるため、同じようなフォントやレイアウトで投稿することも重要なポイントです。



映像の邪魔にならない文字サイズや、アイコンと被写体が被らない配置などを意識するように。フォントもあえて主張を抑えている。



映像以外の媒体からヒントを取り入れる

縦構図は西洋絵画や浮世絵などで古くから使われてきた構図

構図に関しては、映像以外の媒体からもヒントを得て取り入れるようにしています。例えば、縦構図の映像が最近よく話題に挙がりますが、元々は西洋絵画や浮世絵などで古くから使われてきた構図なので、そういった古典的な媒体を参考にすることもあります。

特に、歌川広重による『名所江戸百景』という、江戸の観光スポットを縦構図で切り取った浮世絵連作は、よく参考にしていますね。当時、この作品が出る前までの風景画といえば横構図が一般的でした。歌川広重は、ゴッホやモネなど海外のアーティストにもインスピレーションを与えたと言われており、彼こそが縦構図の風景という手法を新たに生み出した人物ともされています。

また、名所江戸百景が大流行した背景には旅行ブームがあったそうです。各地の宿泊施設にこのシリーズが置かれていて、旅行に来た人が手に取っては「今度はここに行ってみよう」となっていたらしいんですよ。それって、現代のInstagramなどのSNSと全く変わらないなと思って、ちょっと笑ってしまいました。自分が今やっていることが特殊なことではないんだなと安心もしましたね。

歌川広重の浮世絵連作『名所江戸百景』。現代でも見られるような前景を活かした構図など、当時からユニークな発想で描かれていた。







縦型観光リール動画の制作ワークフロー

─ スポット選定 ─
“情報を収集し、そのスポットに合う条件を考える”

本やSNSなど様々なところから情報を収集して撮影するスポットを決めていく

まず、観光リール動画においてはスポットの選定がかなり重要になります。

僕の場合、常にアンテナを張っていて、本屋で立ち読みをしたり、喫茶店で待ち時間に情報誌を読み漁ったり、いろんな人のSNSを見たりと様々なところから情報を収集してスポットを決めています。

行きたいスポットにアタリをつけたら、Google Mapを使ってバーチャル上で事前にロケハンを行います。場所によっては日の出、日の入りの時間帯、どんな光が当たるのかをアプリなどで調べた上、朝に行くべきか、夕方に行くべきかなどを判断し、現地に向かうといった流れです。

次に、そのスポットが今の季節に合っているのかどうかを考えます。特に、世界に向けて日本の良さをアピールする観光系の動画であれば、日本の四季は優良コンテンツのひとつなので各地域の四季を意識することはとても大切になってきます。

また、スポットを選定する際は天候も重要視しており、必ずしも天気がいいから行くわけではなく、場所によっては曇りや雨の日にあえて行くこともあります。

そして、時間帯も大事な要素です。そのロケーションに合った時間帯の光を事前にイメージして計画することが重要だと考えているので、僕の場合は朝や夕方の柔らかい光が入る時間帯によく撮影をしています。

【四季】

選定したスポットが現在の季節に合っているかを考えて撮影するのがポイント。



【天候】

どんな天候が最も合うスポットなのかを考える。



【時間帯】

スポットに合う光をイメージし時間帯を決める。







─ 撮影 ─
“縦構図のメリットを活かす”

縦構図のメリットはレンズの特性を活かした撮影ができること

縦型・横型の違いを言語化すると、縦構図は主観的な構図と言われており、奥行き感や遠近感、高さを強調するような表現に向いています。逆に、横構図は客観的な構図と言われていて、その状況を説明するのに用いられる視点になっており、目の動きの原理原則に従っているため自然な見せ方をする表現に向いています。

また、縦で撮るメリットは、レンズの特性を活かせることです。例えば、広角で撮影するときに縦で撮ると歪みが出ますよね。その歪みを活かして竹林を下からアオリで撮影すると、すごくダイナミックな構図になります。これは横で撮ってから縦に切り取っても得られない効果なので、高さがあるものを撮るときは最初から縦で撮るのがいいかなと思います。


縦構図

● 主観的構図→自分が見ている視点

●「奥行き」「遠近感」「高さ」を強調する表現に向く



横構図

● 客観的構図→状況を説明する視点

● 目の動きの原理原則に従っているため安定して見える




撮影場所は基本的に京都が中心。同じスポットでも三脚での撮影、手持ちでの撮影、ジンバルを使って動きを出した撮影など、様々な撮り方で複数パターンの素材を集めておき、後々編集時に選んでいく。正垣さんが現場で撮影している模様とその撮影結果を以下のQRコードから確認できる。



● 動画を見る







─ 編集 ─
“撮影素材を厳選する”

グルーピングした素材から最もいいカットを選定し素材を揃えていく

編集の流れとしては、まず撮影素材の仕分けをします。僕の場合、ブレやピントの外れたものやどうしようもないものを外していき、消去法で素材を選定しています。次に、トーンや音、カメラワークや視点といった4つ程度のカテゴリに分けて、素材をグルーピングしていきます。そして、分けた素材をタイムラインに並べ、その中でさらに一番使えるカットをそれぞれのカテゴリから選定し、いいカットを揃えていくといった流れです。ここまでやって初めて動画の完成イメージが湧いてきます。




“観光リール動画の特徴を分析する”

自然と何度も見たくなる状況を作るため最後にリピートできるカットで終わらせる

観光リール動画の特徴を自分なりに分析した結果、前半の3〜5秒が最も閲覧される部分であることがわかったため、ベストカットやインパクトのあるカットはできるだけ前半に配置するようにしています。

声なしの動画であれば尺は長くとも15秒前後が基本だと考えており、それ以上長いとエンゲージは下がっていき、リーチも減っていく傾向にあります。後述するBGMもそういった事情に合わせているのか、15秒前後で区切りのいいものが多いです。ただし、情報量の多い動画に関しては長尺でもエンゲージは上がっていくケースもあるため、このあたりは作る動画の内容によって変えていけばいいかと思います。

加えて、Instagramのリールは放っておけばリピート再生される仕様になっています。自然と何回も見てしまったという状況を作るため、動画の最後にリピート再生できるような、最初のクリップに繋がるカットで終わらせることも重要なポイントです。




“適切なBGMを選定する”

映像の世界観に合うもので使用件数が適切な音源を選べば高確率でリーチは増える

BGMの選定を間違えてしまうと、せっかくいい動画を作っても視聴者の心には響きません。映像のジャンルや世界観に合った音楽を選定することが大事です。

例えば、僕の場合、「優しさ」「ピアノ調」などのキーワードでBGMを検索したり、「J-POPは滅多に使わない」などの自分ルールを定め、すべての映像で世界観を統一するようにしています。そうすることで初めてフォローに繋がるとも考えています。

基本的には、トレンドの音源を使うことが良しとされていますが、その音源が使用されたリール件数が何件なのかも把握しましょう。例えば、10万件近く使われている音源であれば、すでに使い古されており飽きられている可能性が高いからです。僕の場合は、数千件から3万件の間くらいで音源を選ぶようにしています。

映像の世界観に合うもので、使用件数が適切な音源を選べば高確率でリーチは増えていきます。リーチが増えればトップページに表示されやすくなり、その動画は伸びやすくなります。バズの方式はある程度存在するため、ポイントを意識してBGMを選定するといいかと思います。

音の要素は、BGMに加え、環境音、効果音といった3つのカテゴリに分けられる。環境音は基本的に現地の音を収録し、効果音は過去映像のストックやフリー音源サイトなどを活用している。環境音や効果音を加えることで一気に躍動感や没入感が増すため、重要な要素。




“映像のルックは写真と同じ世界観に”

写真と同様にあまり色をいじらずトーンで世界観を作ることを心がけている

映像にも写真と同じようなルックを落とし込みたいと考えているため、あまり色をいじらずにトーンで世界観を作っていくことを心がけています。以下の作例は、全て普通の色ではありますが、自分なりにトーンにこだわった撮影をしています。写真も映像もトーンを重視する点は変わりませんが、写真の場合、暗めに撮っておいて後から明るくすると情報量が多いため現像しやすいです。一方、映像の場合は白飛びしない程度に明るめに撮影しておいて、後からカラーグレーディングで色を乗せていく形です。そのあたりの考え方は写真と映像で異なりますが、できる限り似た世界観になるよう意識しています。

Blackmagic RAW【BMCC6K】


N-Log【ニコンZ7】


S-Log3【ソニーFX3】


基本的には写真のルックと同様、コントラストとホワイトバランスを整える程度で映像を作っており、あまりカラーグレーディングをせず自然に見せることを意識している。






写真を撮る人こそ、映像を撮ろう

映像を撮ることで写真の質も変わるし楽しみや表現の幅も大きく広がる

映像に関しては、これまでやってきた自分の表現や趣味の延長と、自分の動画スキルを上げたい一心で続けて今に至っていますが、最近は思いがけず仕事をいただけるようになり、いつまでも趣味や遊びでやっているとは言えない状況になってきました。

お金をもらって仕事をしている以上はしっかりとやっていきたいので、今後はより一層いろいろな仕事で映像を作れるようになりたいです。また、Instagramでの活動も本業に何かしら活かせるよう楽しみながらやっていければと考えています。

映像という媒体は、写真では見せることのできない時間の流れを見せることができます。また、映像を撮ることで自分の撮る写真の質も変わってきます。今はカメラ1台あれば、どちらもハイクオリティーで撮影できる時代なので、「写真はやっているけど、映像はまだやったことがない」という方は、ぜひ映像にも触れてみてほしいですね。きっと、楽しみも表現の幅も大きく広がるかと思います。